あたしはあんたを信じて待つしかないの。
あんたを・・・待つしかないの。
干し柿
ふと目覚めた場所は執務室のソファーだった。
夕方なのに寝ていたのか、久しぶりにあいつの夢を見た。
愛染と東仙とともに裏切りに走ってから何日が経ったのだろう。
「起きたか松本」
「・・・隊長?あたしまた寝てたんですね」
さりげなく掛けられた毛布が嬉しい。
ここで幼い頃、あいつが掛けてくれた布団のことを思い出すなんてどうかしている。
何であたしの周りの男たちはこうもさりげなく優しいのだろうか。
「今日の分の書類は整理しておいた」
「あんなにあったのに、お一人で?」
「うるせえよ。ほらこれ預かってるぜ」
渡されたのは白い紙切れだった、固くノリで閉じられている。
忘れたくても忘れられない、慣れ親しんだ霊圧を感じる。
これは・・・
「三番隊の吉良から預かった、おまえ宛だ松本」
この霊圧はギンの・・・
乱菊はそっとそれを受け取った、絶対わざと霊圧を残しているんだ。
隊長も気がついているはずだが何も言わない。
その心遣いが嬉しくもある。
いったい何が書かれているのだろうか?
おそるおそる開けてみる。
「これは・・・」
”ボクの好物を窓際にかけといてな、乱菊も好きなアレや。。いつでも取りに行くから。じゃ、よろしゅう♪”
ぐしゃっと手紙を握り締めた。
「あの男・・・敵に回ったくせにあたしのところに来る気!?しかも干し柿を催促するとは!」
わなわなとしていると日番谷が近寄ってきた。
「今日の業務は終わりだ。後は好きにしろ」
「すみません何もできなくて」
「別に、今日に始まったことじゃねえ」
「・・・どーも」
眉間の皺を深め、立ち去る日番谷。
乱菊も自分の部屋に戻ることにした。
「これでよし!」
書かれていた通り、窓際に干し柿を吊るしてみる。
「・・・何やってんだか、あっちには干し柿ないのかしら」
ふぅとため息をつく。
カーテンと共に干し柿が風に揺れる。
「いやーおおきに、乱菊」
「っ!」
ビックリして振り向くとギンが普通にいた。
「ば!見つかるわよ!?」
「もう見つかってるやん乱菊に、霊圧消しとるから乱菊が騒がん限りバレへんよ」
部屋着のために刀はない。
この男を前に丸腰とは落ち着かないが。
「ちゃんと干し柿かけてるわよ」
「わかっとるよお手数かけまして」
「わかってんならさっさと持って行きなさいよ。
あんたはもう隊長でもなんでもないんだから、ここにいるべきじゃないんだから・・・」
徐々に力を無くしていく声。
後ろから抱きすくめられ少し驚く。
「ボクは乱菊に会いに来たんや。干し柿は口実、わかってんねやろ?」
抱きしめる腕に力が入る。
「ギン・・・」
「残念ながら襲われへんけどキスくらいさせてや」
「ムリムリ絶対むり」
「なんで?」
振り返らずとも奴が拗ねている事は手にとるようにわかる。
大げさに残念そうにしているのが目に浮かぶようだ。
「あのね・・・もはや敵なのにそんな馴れ合いできるわけないでしょ」
「相変わらずお堅いやっちゃな〜でもそこがまた好きやねんけどな♪」
「好きなら・・・なんで敵になっちゃうのよ!?」
「あー大人の事情があるんよ」
いつもの笑顔を少し困ったように歪める。
こっちはがばっと上げた顔を思い切りしかめた。
「そう、なら覚悟しなさい、あたしが倒してやるから」
「んー怖いわあ。んじゃボクは押し倒すしかないやん」
「・・・冗談に聞こえないんだけど」
「本気やよ?」
ギンを睨みつけるがまるでどこ吹く風。
へらへらといつもの笑みでかわされた。
「次は、いつ会えるの?」
「わからへんけど、ボクがどこにいようが乱菊への気持ちは変わらへんよ。
ずーっと好きやったんや昔から変わらずずっと」
「・・・あたしも、よ」
二人は抱きしめあった。
温もりを染みつけるように、しっかりと。
完
あとがき
あの肌身離さず首にかけている指輪のネックレスのくだりを早くやって欲しいんですが。
ギンにもらったんでしょうね、萌える・・・
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