立場は違えど
ここは酒場。
とある村に宿を借りて、ヴァージニアは食事の買出しに来ているところだった。
そこで一人の男と出会う。それは忘れたくても忘れられないでいた人物。
「生きていたのね・・ジェイナス」
「生きてちゃ駄目だったか?お嬢ちゃん」
相変わらずのお嬢ちゃん呼ばわりも気にならなかった。
生きていたのだ。敵としてこの手で殺めた筈のあの男が。
しかもこんな村のこんな酒場で出会うとは・・・一人な上、丸腰だ。
「げ、元気そうね」
「そうでもないさ。お嬢ちゃんに殺されかけたからな」
にこにこと笑いながら胸に手を添える。
「ここが痛んだが、ね」
そう言って立ち上がった。
思わずヴァージニアは身構える。
「そう硬くなりなさんな。別にとって食おうなんざ思ってねえよ」
「・・・どうして生きてるの?」
「あんな銃撃で俺が死ぬわけないだろ。それに・・・俺はまだ死ぬわけにはいかない」
「また、私たちを裏切るつもり?」
睨みつけられているがその視線を気にもとめず彼は続ける。
「裏切られる方にも罪はあると思うがな」
「黙りなさい!あなたを信じようと頑張った者の気持ちを踏みにじっといて、よくもぬけぬけと!」
「くっくっく、まあそんなに熱くなりなさんな。あんまりそんなだと火を噴いちまうぜ?」
そういうとジェイナスは空いている席を指差した。
「まあ座ってゆっくりとお話しましょうや」
「・・・」
二人は酒場の席に向かい合わせるように座った。
困惑するヴァージニアを尻目にジェイナスはウェイターを呼び寄せ注文する。
「コーヒーと・・・お嬢ちゃんは何がいい?」
「・・・アップルティーで」
「んじゃそれを。あとこのケーキも」
「かしこまりました」
ウェイターはそう礼儀正しく一礼すると厨房に今の注文を叫ぶ。
「甘いもの好きなのね」
「ケーキを頼んだことか?これはお嬢ちゃんのだ」
「そうなの・・・あ、ありがとう」
「いえいえ。女の子は大事に扱わなきゃね」
戦闘を繰り広げた後にそんなことを言われても説得力に欠ける。
もう一度睨んでみたがジェイナスは相変わらず笑顔だった。
「なんか、あく抜けた感じね」
「お嬢ちゃんが目の前にいるからさ」
「よくまわる口はそのままね。そういう冗談を言うから痛い目に合うのよ」
「おいおい冗談と決め付けるなよ。本気かもしれないだろ?」
「ふふっ、本気なら私を殺そうなんてしないでしょ」
「殺してねーだろ」
「・・・え・・・」
確かに結果的には殺されずにすんでいる。
だがそれは自分らの力量によるものでは・・・
そこまで考えてヴァージニアははっと顔を上げた。
殺されていない。でも殺したはずの男がこうして生きて目の前にいる。
それの意図することは、
「あなた・・・本気で戦ったの?」
「本気だったら今頃お嬢ちゃんたちはいないと思うぜ」
「!!本気じゃなかったの!?」
ガタンと勢いよく立ち上がると驚いたウェイターが目を白黒させた。
コーヒーとアップルティーを運んできたのだ。
「ご、ご注文の品です」
「あ、どうも・・・」
気恥ずかしくて頬を赤く染めながらゆっくりと席に着く。
その様子を見ていたジェイナスはクックッと笑った。
「相変わらず面白いな」
「そんなことはどーでもいいの!質問に答えて!」
声のトーンを抑えつつくってかかる。
「おー怖い怖い。ま、そうだな。本気出すわけないだろうお嬢ちゃん相手に」
「どういう意味よ!?」
「そのまんまの意味さ」
「私が未熟って言いたいわけ?」
「違う。死なせたくなかったんだ」
「それは・・・」
どういう意味か問いただそうとしたのに、できなかった。
彼が生真面目に自分のことを見つめていたから。
「あの・・・ケーキお持ちしました・・・置いておきますね」
店員が現れたかと思うと逃げるようにケーキを置いて去っていった。
「・・・逃げなくてもいいじゃない」
「痴話喧嘩に見えたかな?」
ひょうひょうと言う男を一睨みして、目の前のケーキにフォークを突き立てる。
「む・・・美味しいけど、こんなんじゃ騙されないわよっ」
「ひどい疑われようだ。んな邪険にしなくてもいいじゃないか」
「自分の胸に聞いてみなさい!」
ジェイナスはにやりと笑うと前髪をかき上げた。
「俺が本気にならなかった理由。わからないか?」
「わからないわ、さっぱりね!」
「俺がこのショートケーキだとする。お嬢ちゃんはその上の苺だ」
「はあ?」
「つまりそのケーキに苺は不可欠だ。俺にはお嬢ちゃんが必要だ」
ヴァージニアはぶふぉっとむせる。
「な・・・っ私はあなたに手を貸す気はないわよ」
「はあ、まじで鈍いな。鈍すぎるぜ」
「???」
「つまり、俺にはお嬢ちゃんが不可欠・・・惚れちまったというわけだ」
フォークをくわえたまま、男を見上げた。
その瞳には驚きの色が映し出されている。
「好きになっちまった。もはや敵、なのにな」
「・・・それを、信じろと?」
「信じる信じないは勝手だ。だが俺はこんな何の得にもならねー嘘はつかねえ」
「・・・・・」
「返事がどうであれ俺の気持ちは変わらねえ。本格的に敵対してもそれだけは忘れないでくれ」
かちゃりとフォークを置いた。
ゆっくりと目を上げると端正な顔立ちの男と目が合う。
悪人には何故か美形が多いが彼もその一人か。
「・・・嫌よ」
「え?」
小さな呟きを聞き逃がさなかったジェイナスは耳に手を当てるといった古風なポーズで聞き返した。
「敵対するのは嫌!だって、私はあなたをまだ信じたいから・・・」
「・・・」
肩を震わせてそう訴える少女は、彼を衝動的に動かした。
気付けば立ち上がり、その震える肩を後ろから抱きしめていた。
ヴァージニアはぬくもりを感じながらも固まった。
「ジェイナ・・・」
「――悪いな。もう後戻りはできないんだ」
「あなたがどうしようもない悪人でも・・・私は信じてる。待ってるから」
ぎゅっと彼の腕を掴む。
「愛してるとはこういう時に言うものかな。言葉は難しいな」
「私より長く生きてるくせに」
「うっせ。部屋に連れ去って襲うぞ」
「そんな具体的に言わないでよ・・・私キスもしたことないんだから」
「まじかよ・・・」
「あなたと一緒にしないでほしいわ!私まだ未成年なんだし!」
ジェイナスはにやりと笑う。
「じゃあこれが初体験だな」
そう言って少女の口に軽いキスを落とした。
「なっ」
「くくっ、こんなのは序の口だぜ?」
硬直するヴァージニアの手に小さな金属を握らせた。
「これは俺の部屋の鍵だ。続きは部屋で、だ」
「・・・っ」
「お嬢ちゃんには選択権と覚悟を決める時間を与えるよ。
本当なら今すぐにでも襲いたいがそれは紳士のするべきことじゃないだろ?」
「何が紳士よ」
「こんな所で辱められたくないだろ?それと来なかったら迎えにいくからな」
「・・・わかってる、わよ」
「いい子だ」
彼はそれだけ言うと闇に消えていった。
もちろん支払いがまだだ。
「あいつ・・・絶対返してもらうから」
ヴァージニアは固く心に誓った。
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あとがき
もち続きは18禁です。
てゆーかジェイナスってば絶対ヴァージニアをつけててこの村に着たんでしょうね。
これぞストーカー!!ひゃっほい!!
てゆーか代金払えよ。