怪我の功名






さーん」

「ん?どうしたの伊作くん……と文次郎?」

「俺見て急に不機嫌になるのやめろ」


ため息をつく仏頂面の男はいつになく偉そうだったが左肩を押さえていた。


「怪我した?」

「だから保健室なんぞに来たんだよ。ま、伊作に無理矢理連れて来られたんだけどな」

「よく言うよ保健室に連れいていけって言ったのは自分・・・」


言いかけてバコッと殴られ悶絶する哀れな保健委員長。
キョトンとしているに文次郎は向き直る。


「お前腐っても薬士の娘なんだろ、とっとと傷薬処方してくれ」


この無礼な発言には笑顔でキレた。


「悪いけど傷の状態見ないからには薬は出してあげられないなあ」


がしっと左肩を掴む。


「いてぇーーーー!!バ、バカヤロウ俺は病人だぞ!」

「病人は病人らしくおとなしく寝る!あ、上着は脱いでね」

「く…」


言葉につまり仏頂面なまま白いベッドにどかっと座った。
上着の左肩の部分が血に濡れて真っ赤に染まっていたが構わず脱いで乱暴に投げ置く。


「あ、では私はこれで。後はお任せしますさん」

「うん。ご苦労様伊作くん」


心配げに(実は名残惜しげに)帰る伊作にひらひらと手を振り、文次郎のほうに向き直った。


「んー深い傷じゃないけどひどい出血ね、どこで怪我したの?」

「…森で修行してたら枝でちょっとな」


傷跡を確認しつつ柔らかい布で血を拭き取る。


「消毒液がしみるけど我慢してね」

「っ」


布が傷跡に触れたとたん痛みが走った。
だがここで痛がるような男ではない、歯を食いしばって痛みに耐える。


「これを貼れば・・・と。よし、できたわ!」


ぽんと背中を押される。
鏡に綺麗にテーピングされた箇所が映った。


「お、まともな治療ができるんだな」

「失礼ね。薬士の娘をなめんじゃないわよ」


言いつつ代わりの医療服を渡す。


「俺の服はどうした?」

「あー、あれ?血もついてたし破れてたから私が手直ししといてあげる、2・3日代わりの服で我慢してね」

「おまえが縫うのか?」

「なによ不満?」

「いや・・・」


むしろ願ったり叶ったりだ。
正直、嬉しかったりする。
黙り込んでしまった文次郎を不審に思い、隣に椅子ごと移動する。


「何よ他にも怪我してるの?」


顔を近付けたとたん唇が重ねられた。


「・・・」


時が止まったような室内。
いずれ唇は離されたが、放心状態の


「・・・俺はおまえが好きだ」

「・・・」


目の前の男が赤くなっている。
実に貴重な反応だ、と放心しながらもはそんなことを考えていた。
だが次に文次郎は意外な行動を取った。
なんと勢い良く立ち上がり、何もなかったように医療服を着始めた。


「すまん。勢いだ忘れてくれ」


そう言い捨て立ち去ろうとしたのだ。
は力任せにぐいっと彼の腕を引っ張った。


「いてぇーー!こっちはテーピングしたばかりの腕だぞ!?」

「な、何よ勝手にキスしといて勝手に謝らないでよ!」


再び座り込む。


「おまえなあ・・・」


言いかけて止まった。
が怒ったようにこちらを睨んでいたからだ。


「私のことを好きって言ったことも勢いなの?」

「・・・嘘はつかねえよ」

「じゃあ本当?信じてもいいの?」

「疑り深い奴だな、嘘はつかねえよ」

「・・・私もよ。私も文次郎が好きよ」

「・・・・・・本当か?」


はこくりと頷いた。
そのまま顔を上げようとしない。


「俯きたいのはこっちだ」


文次郎は頭を掻くと、いびつな動きでのあごをとらえた。
俯いたままの顔を上げさせる。


「俺でいいんだな?」


はにっと笑うと頷く代わりに目をつむった。
静かに重ねられた唇はさっきの何倍も長かったと言う。









あとがき

根本的な告白シーン。
何かのきっかけがないと二人は発展しないと思いまして(苦笑)




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