陸酔いは健在








「あ、鬼蜘蛛丸さーん」


振り向くと海に似合わない娘がこちらに手を振っていた。


さん!?ど、どうしてここに!?」

「雅之助のラッキョウと野菜を届けにきただけです」


微笑み荷物を下ろす。

「料理する気で来たんです。そこの魚たちはさばいてくださいね、さすがに私も魚はさばけないんで」


やったー!という海賊たちの声が聞こえてきた。
タイミングよく下っ端の者たちが、ぞろぞろと船上に上がってきたのだ。


「大丈夫ですか?あいつらの食い意地は半端ないですよ」

「鬼蜘蛛丸さん、手伝っていただけます?」

「え!も、もちろんですよ!!」


向けられた笑顔に赤面する鬼蜘蛛丸。
うきうきと食材を抱えて調理場に入っていく彼女の後姿をしばらく見送っていると、船の海賊たちが彼に歩み寄る。


「可愛いっすねー鬼蜘蛛丸さんの彼女」


にやにやと囁く。


「ば、ばか!そんなんじゃねえ!」


慌てて否定するも顔が赤いためその海賊はさらに笑う。


「誰かに奪われる前に奪うのが俺たち海賊のやり方っすよ」


その海賊はくすりと笑い、他の者たち船内の部屋へ消えて行った。


「・・・そう、だよなあ・・・」


鬼蜘蛛丸はぼりぼりと頭を掻いて、歩き出した。
手伝いを頼まれるような関係を崩すことが俺にできるのだろうか。
もといあのらっきょうバカから彼女を奪い取ることができるのか・・・




「あ、鬼蜘蛛丸さん、そこの魚さばいてくれます?」

「もちろんだとも」


彼の魚さばきの腕はもう一流だ。
船の舵取りと泳ぎは得意である。
だから自分で取った魚をさばくこともしばしば。
魚介類さばきが唯一の海賊の誇りとは情けないが。


「散らし寿司を作ろうと思ってます。簡単だし魚介をたくさん入れれば豪華になりますよ」


持参した大木の鉢巻をまわし、しゃもじで酢飯をかき混ぜ始める。


「ふう、こんなものかな。鬼蜘蛛丸さんちょっと味見お願いします」

「え、ああ」


魚を下ろすのを中断し、酢飯を一口。


「うまいよ!」

「良かったです」


笑い合うとが「あっ」と呟いた。


「ちょっとじっとしていてください」

「え・・・」


口の横についていたらしいご飯粒を指でさりげなく取り除いた。
非常に至近距離なのが鬼蜘蛛丸の心拍数を上げた。


「わあっ!す、すいません!」

「あのう、なんで私、手をつかまれてるんでしょう?」

「すすすすいませんっつい防衛本能が!!」


しかと手をつかんでいる鬼蜘蛛丸。
謝っている割に手を離そうとしない。
そのままを抱き寄せた。


「え!?」

「・・・すいません。宝よりも名声よりもあなたを選ぶなんて海賊の頭としては失格ですね」

「あ、あの、誰もそんなふうに思ってませんよ。少なくとも私は船も鬼蜘蛛丸さんも好きです」

「ありがとうございます、こんな出来損ないの海賊ですが・・・魚をさばくことばかり上手くなってるんですよ」

「あなたは強いですよ、皆をまとめる能力もあります。
遠くに行かないことを祈るばかりです、もっともその時は問答無用でついていきますが」

さん・・・」


鬼蜘蛛丸はさらに強くを抱きしめた。


「いいんですか、こんな俺で」

「・・・そのセリフ、そのままお返しします」


くっと鬼蜘蛛丸は笑った。


「俺は腐っても海賊です。欲しい物が手に入ったと思い込みますよ」

「ええ、どうぞ」


「愛しています・・・さん」



















あとがき

海賊・・・いいですね(何)
鬼っちは好きですあのワカメ髪がいいです、たは。
陸酔いの事実があるので仕方なく船上です。第三協栄丸は船酔い・・・?