朝の風景
「おーい、そろそろ起きろー」
「ん〜」
ぼんやりと目を開けると大木が座り込んでいた。
「きゃあ!何々何事!?」
すかさず布団をかぶり直す。
「いや、採り立てのらっきょうを食わせてやろうと思ってな」
「・・・そのためにわざわざ敷居またいで私の領域に侵入したの?」
怒ったように言う。
勝手に敷居を越えてはダメだと言い出したのはそっちだ。
がこの家に居候して何日か経つがまだその決まり事は破られていない。
「細かいことは気にするな」
何も気にしていない様子で続ける。
遠慮とかないのかこっちは花も恥らう乙女だが(自称)
「で、何用?」
呆れた様子で起き上がる。
「じゃから、らっきょうが採れたのでな、ほれ採り立てだぞ」
「朝一でそんな物を食えと?」
「うまいぞー今食べんでいつ食べる」
「そんな用事で決まり事を軽く破らないでよ・・・」
「食べさせて欲しいのか?」
「都合のいいように解釈しないでほしいわ」
それでなくても雅之助は遠慮がないんだから・・・と言おうとしてるそばかららっきょうを食べ始めた。
「・・・何してんの?」
男はにやりと笑うといきなりの肩をつかんだ。
「え!?」
「おまえがどうしても食べないと言うのなら口移しで食べさせてやろうと思ってな」
朝っぱらからバカな発言を繰り出す男に、は立ちくらみを覚えた。
歯がない老人じゃないんだからそんな柔らかくする必要はないだろう。
てゆーか他人のしかも女にすることではない、ここは遊郭か!
「ばか雅之助!着替えるから今すぐ出て行ってよ!」
動こうとしない男。
「・・・聞こえなかったの?出て行けと」
「まあ、本当は話があったんだが」
決まり悪そうにそっぽを向く雅之助は噛み砕いたらっきょうを飲み込んだ。
「話?」
「・・・おまえ、仕事する気はないか?」
後ろから一人の老人と頭巾をかぶった猫か犬かわからない生き物が現れた。
「え、誰!?」
「はじめましてじゃなさん」
「ヘムー」
「こちらはな、わしが昔勤めていた忍術学園の学園長だ」
座るように促す。
てゆーかここ私の部屋なんですけど、しかも寝間着のままなんですけど。
雅之助はいかにも自然な流れで私の横に座り込み、いつの間にか用意された机に茶菓子を置く。
「保健医の新野先生が助手を欲しがっている、聞くところによると君は医師の知識があると」
「はあ、まあかじる程度ですが」
「どうだねやってみんかね、助手だからそんな難しくはなかろうが」
「こんな田舎に若い娘がくすぶっているのは見ていてなんか哀れでな」
珍しく雅之助がまともなことを言っている。
ヘムヘムと鳴く奇獣もこくこくとうなづいている。
きっと学園長を呼びだしたのはこの男だろう。
「それはいいですが、本当にかじった程度ですよ」
「かまわんよ、この男の推薦じゃし細かいことは新野先生から学ぶとよい」
投げやりな気がしたがまあ仕事を探す手間が省けた。
「わしが許す唯一の職場じゃ。しっかり働いて来い、わしも暇を見つけて顔を出す」
「え、ここから通うんじゃないの?」
「残念ながら忍術学園はちっと遠いのでな、泊り込みがいいだろうしそれが決め事でもある」
「・・・じゃあ、離れ離れになるの」
雅之助がふっと笑った。
「なんじゃ、寂しいのか?」
「・・・ちょっと心細いかなあ」
「大丈夫じゃ優しい先生ばかりじゃ、それにわしが頻繁に会いにいってやる」
「本当?」
見つめあう二人の間に桃色の景色が見えた。
「・・・なんじゃこの甘ったるい空気は」
「ヘムヘム?」
バリバリと煎餅を食べる学園長とヘムヘム。
朝っぱらから見せ付けられて、絶対大木の来訪の邪魔をしてやろうと心に誓うのであった。
あとがき
方想いかと思いきや一応両想い設定で。
きっと学園長に邪魔されまくりますがド根性で2人は会えるはずですー
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