川は流れる。


どんなに雨が降ろうと

どんなに風が吹こうと


川はその流れを止めはしない。









出会いは棺より









浦原喜助はふらりと一人釣りに来ていた。
東京の川はお世辞にも綺麗とは言えないため魚などは釣れはしない。
あくまで気晴らしだ。

「ま、ゴミを釣るのも環境にはいいでしょ」

鼻歌を歌いながら糸をたらす。

「おや?」

見慣れない物体が流れてくるのを見つけた。
深くかぶった帽子をずらすとそれが棺であることがわかる。
かなり不吉だが浦原はかまわずそれを持っていた杖でたぐり寄せる。
それは真っ黒だった。
普通なら白いはずで中身はたいてい死体だ。
どこの死体かと蓋を開けてみると可愛らしい少女が花の中に横たわっていた。

「おー…なんか血色いいっスねえ」

しかし生気も霊気も感じられない。
ふにおちない死体だと思って顔に触れようとするといきなり目が開いた。

「うわ!」

開いた目が驚いている男を捕らえた。

「…助けてくれてありがとうございます」

「え、あ、ども」

気の抜けるような会話を交わし棺の中の少女がむくりと起き上がった。
とたんに霊力があふれ始める。
間違いなく故意に隠されていたのだ。

「すごいっスね、見事に死体だと思いましたよ」

見ると死神特有の死覇装に身を包んでいる。
男の目つきが鋭くなる。

「何者ですか?」

少女はにっと笑った。

「私は 。死神です。わけあって修…槍佐木副隊長のもとで隊員として暮らしていました」

すとんと浦原の横に着地した。
長い髪が揺れる。

「この棺の結界は誰が何のために張ったんですか?」

「私が張ったのよ、おかげで死神たちの目をくらませて現世に来れたわ。寝ちゃったけど」

ペロッと舌を出す。
川を流れている棺の中で眠るとは大物だ。
浦原ハクスッと笑った。

「脱走するとは何かわけがあるようで。なんであれアタシを欺くほどの結界はすばらしいでス。
ここであったのも何かの縁、アタシの元で働いてみませんか?」

「え…住み込みでいいなら…」

浦原は広げた扇子を口元にあてて意外そうな顔をする。

「構いませんが、いいんスか?親御さんとか心配しますよ」

「そんなのいたら一人だけ逃げてないわよ」

「あ」

思わず棺を見る。

「脱走犯でしたね」

「まあね、親も家もずいぶん昔に虚(ホロウ)に奪われたの」

「…」

「皮肉なものね。昔母親を逃がそうと細工した入れ物に自分が入ることになるなんて」

「脱走は容易なものじゃない。
おそらく今頃頭の固い爺さんが追っ手を差し向けているころっスよん」

楽しそうに言う。

「やっぱり…。それならここにいたらあなたにも迷惑をかけてしまうわ」

「死神であるあなたを見ることができるアタシを不思議に思わないんスか?」

「え、あ…」

男はぱちりと扇子を閉じた。

「おそらくその虚が現世に現れるという情報を得た、だから脱走した、違いますか?」

「う…」

図星だ。
言葉に詰まった時、背後に強い霊圧を感じ、
振り向こうとしたらその男に引っ張られた。
そのままを背後に隠すようにする。

「一瞬の霊気の流れで追っ手に気付かれたようですね」

空を見上げると見慣れた死覇装が揺れていた。

「おや九番隊の槍佐木副隊長じゃないっスか、珍しいですねえ副隊長自ら現れるなんて」

「…浦原さん。俺はあんたに剣を向けたくはねえ、そこの女を渡してもらいたい」

「あれ、アタシを倒せるとお思いですか”副”隊長サン」

にかっと笑う浦原に間違いなくきれる槍佐木。

「あんたが昔十二番隊長だったってことは聞いている。でも彼女を連れて帰るまで俺は負けられねえ!」

「修平…」

このゲタ男が隊長だった?
じゃあ副隊長が敵うわけがない。
両方に怪我をして欲しくないというのは我が侭なのか。
浦原は悩めるの手をさらに強く握る。

「アタシは無駄な戦いはしたくないんで、逃げます!」

「え…」

あっという間にを連れて姿を消した浦原を追おうとした瞬間、
槍佐木の目の前にでかい何かが現れた。

「ひっ」

「副隊長殿とお見受けしました。私がお相手しましょう」

テッサイだった。
たちまち筋肉に任せて捕らえられる。

「うわ!は、離せ!」

ジタバタしようとまったく効いていない。



「なんやねん、見失ってるやん」



「市丸隊長!?」

槍佐木の驚いた声でテッサイも空を見上げる。

「…隊長殿、がわざわざ人探しですかな?」

眼鏡が光る。
市丸隊長と呼ばれた人物は笑顔で空中にいた。
いつからいたのか、それすらもわからない。

ちゃんはボクのやから探しとるんよ。別におかしないやろ」

誰があんたのだー!という声が遠くから聞こえたような気がした。

「なんや、浦原商店に帰りはったんかー芸があらへんねえ」

ふうとため息をついたと思ったらもういなかった。
逃げ足では浦原には勝てないと思うが行き先がばれているし。

…面倒な男共に関わりやがったな…」

槍佐木の呟きはテッサイの筋肉攻撃にかき消されていった。






逃げ書き

ラブないようで主人公が愛されてます(吐血)
無理やりにでも現世に持ってかなきゃ浦原と絡めないんで。
槍佐木がかわいそうで。