狐の嫁入り
さっきまで快晴だったのに突然雨が降ってきた。
狐の嫁入りというやつか。
銀時は傘をさして歩いていた。
ジャンプの発売日だからで向かうは近くのコンビニ。
ついでに菓子パンでも買うかとぼんやり考えていると、道端のバス停で座り込んでいる見覚えのある姿が見えた。
「珍しいな、おまえがこんな所(地上)にいるなんて」
傘をたたみ話しかけた相手は濡れた髪をせっせとタオルで拭いている月詠だった。
「銀時か、急に雨に降られてな雨宿りをしていたところじゃ」
「てゆーか何でいるんだ?」
その問いにムッとしてタオルを下ろす。
「”からあげくん”とやらを買いに来た。日輪に頼まれたのでな」
それは銀時の家の近くのコンビニで売られている物、わざわざ月詠を遣わせた意図が見えてきた。
息抜きをさせると同時に何かあっても近くには俺がいる。
あわよくば俺とこいつを引き合わせようとした日輪の策略に違いない。
まあ、ここで会ったのも何かの縁か・・・
髪を下ろした月詠のこんな姿は貴重だ。
傘を弄びながらじっと見つめていると視線に気付いた月詠が顔を上げた。
「なんじゃ、わっちの顔に何か付いておるか?」
「いやあヘビースモーカーなくせに肌綺麗だなと、化粧してねーんだろ?」
「たかが遣いに化粧などするか、世辞を言おうと何も出やせんぞ」
「せっかく褒めてやってんだから素直に受け取っとけよ。んで”からあげくん”は買えたのか?」
「まあな、ぬしは何用じゃ?」
「俺はな・・・」
ジャンプを買いに来た、と言おうとしたが盛大なため息にかき消された。
「どうせまたつまらぬ用事じゃろう、まったくぬしはプー太郎か」
「誰がプーだ!ちゃんと仕事してますー万事屋銀ちゃんは吉原の救世主だろうが!
変態蜘蛛男からおまえを救ったヒーローでもあるんですけど!?」
「はあーなんでこんな奴を好きになってしまったのか・・・」
顔を背けブツブツと呟く。
「ん?」
「な、なんでもない!さあ用があるならさっさと行きなんし!」
すると今度は銀時が深いため息をついた。
「あのさー俺そんなに薄情に見える?こんな所に女一人置いて行けるわけねーだろ」
「わっちを女扱いするなと何度も言っておる、案ずるな少し雨宿りしたら帰りんす」
頑として動こうとはしない。
銀時は再びため息をつき、おもむろに傘を広げた。
そのまま立ち去ると思いきや、強引に腕をつかまれ立ち上がらされた。
「わ!?」
「ばーか変な意地はってんじゃねえ、雨がおさまるまで俺に付き合え」
態度こそぶっきらぼうだったが、頬は少し赤かった。
「・・・いいのか?」
「男に二言はねえよ、それに俺の用は大したもんじゃないしな、このまままっすぐ帰ろうぜ」
「し、しかし」
「心苦しいか?それなら今夜飯作れ。それで貸し借りなしだ」
雨が降り続く道を一つの傘をさし歩く男女。
事情を知らない者が見ればアベックと映る。
月詠ははたと顔を上げた。
「今夜?」
「あーつまり今日のところは泊まっていけってことだ。
べつにやましくないよ?残念ながら神楽もいるし、たまには百華の頭にも休暇が必要だろ」
「うーん、じゃが使いの途中じゃ・・・」
「日輪もそれを望んでるんじゃね?連絡くらい入れてやるから」
「やけに気前がいいな、何か企んでおるのか?」
「そ、そんなんじゃねーよ俺はおまえがっ」
振り向いた先にはこちらをじっと見上げる月詠の顔があった。
思わず言いかけた言葉を飲み込む。
「・・・お、おまえが、ただ心配なんだよ・・・」
「え?」
頭をガシガシとかき、立ち止まる。
必然的に月詠も足を止めることになり、何事かと隣の男を見つめ続ける。
するといきなり抱き寄せられた。
「ぎ、銀時!?」
「・・・てめー吉原の女の癖に鈍すぎ。いいか俺は好きな女しか泊めねえ主義だ」
「・・・・・わっちも、軽い気持ちで男の家になど泊まらぬよ」
「なんだか、やんわり断られてる気が」
「気のせいじゃ。ぬしの鬱陶しいまでの気迫はどこへ行ったのじゃ?
白昼堂々女を抱きしめておいて今さら何を弱気になる?」
月詠を抱きしめながら銀時が小さく笑う。
「誰が弱気になってるか。俺は脈ありな好きな女しか抱かねーよ」
「そういうのを自意識過剰というのだぞ」
「うるせー」
「ふふ、何が食べたいんじゃ?」
顔を上げた瞬間、キスを落とされた。
月読の顔が見る見る赤くなる。
「そりゃあもちろん月詠・・・と言いたいところなんだが家にゃクソガキ共がいるんでね。
今日は大人しくただ料理でもしてもらおうかな」
「あ、当たり前じゃバカ者・・・」
真っ赤な顔で反論する月詠を見つめる銀時の目は、
今まで誰も見たことがない優しいものだった。
あとがき
ラブラブになってたらいいなー的な銀月です。
銀さんにちょっとばかり攻めていただきました、じゃないと鈍い月詠ちゃんには伝わらないかと。
頑張れ銀さん!〈他人事〉
戻