一夜の想い









職務で忍び込んだ花街の店で芸者に成りすます千鶴。

芸者姿の彼女を直視できない斉藤はずっと顔を背けていた。
だからなおさら千鶴の気を引くことになる。


「あの、斉藤さん?」


酌をしつつ、目を向けてみる。


「あのう」


目を合わせようとするとすかさず顔を背けられる。


「・・・似合ってませんよね、そうですよね」


うつむく千鶴に斉藤は慌てて顔を向ける。


「ち、違うんだそんなことはない!」


彼にしては大声を張り上げたつもりだったらしいが新八に言わせれば蟻がちょっと騒いだ程度らしい。
でも酒のせいか赤い顔で千鶴の手を握り締めたことは、衝動と一言で終わらせるにはいささか問題がある。
握られた千鶴まで赤くなったのだから。


「あの・・・」

「・・・言葉にするべきか、迷っていた」


見つめてくる目はどこか有無を言わせぬ光があった。


「さ、斉藤さん?」

「・・・やはり、伝えておく」


握られた手にさらに力が入った。
隣で新八が暴れようが酒により土方の目がすわってこようが平助が雑魚寝しようが眼中に無いらしい。
なんとなく千鶴は苦笑した。


「ふふ、どうしたんですか?これじゃあお酌できませんよ?」


握られた手に目を向けようとするといきなり強い力で引っ張られた。
気付いたときには何かに包まれていた、暖かい、何かに。

彼の腕に抱きしめられていると気付くのに時間がかかったが、気付くと同時に徐々に頬が熱くなる。


「あ、あの、酔ってます!?」


さらにぐっと抱きしめられてドキドキと鼓動まで早くなる。
普段の淡白な彼からはとても想像できない大胆な行動。
思えば触れられるのは初めてかもしれない。


「・・・酔っている、かもしれん」


呟いた言葉が耳元で聞こえる。
静かだが、低い声。


「酒の力を借りねばこんなことはできない、それはもうおまえにもわかるはずだ」

「あ・・・」

「酒の力を借りねば、言えないこともある」

「は、はい」

「・・・・・よく、似合っている」

「え?・・・あ、ありがとう、ございます」


この芸者の格好を褒めてくれたのだ。
嬉しい!
なんだか恥ずかしいが、嬉しい!!

抱きしめたのはきっと顔を見られたくなかったから。
でも抱きしめる方が問題があるがるのではないかとは言えない。
千鶴も最初はドギマギしていたが大分落ち着いてきた、
それはたぶん、ぬくもりが心地よかったから。


「斉藤さんは暖かいですね」

「・・・すまん、らしくないことをしているな」


胸の中で千鶴が首を振る。


「謝らないでください、私はどんな斉藤さんも、好きです」

「あ、ありがとう」


繰り広げられる甘い二人だけの世界。
だが酒に飲まれた新撰組の中に今だシラフな左之助が、杯を傾けながら横目で斉藤を見やる。


「・・・あー悪ぃが二人きりにゃできそうにねーわ、まだ俺は酔いつぶれねぇしな」


絡んでくる新八を薙ぎ倒しながら、でも暖かく?見守る左之助だった。
















あとがき



何よりも千鶴可愛いv

随想録の彼女は可愛さ増してます。惚れます。
芯が強く、でも女らしく、しかも美少女な鬼!

・・・あのー完璧?(鼻血)

正直、初代”薄桜鬼”での千鶴はあまり好きではなかったんですが随想録で一気に落とされましたv(笑)
可愛いわvvv