偽りの客人











薩摩藩の企みを暴くため新鮮組の命令で、千鶴が可憐な芸者姿で島原に潜り込んだ。
だが彼、風間千景を欺くことは不可能だった。
最初から正体に気付いていたらしい。
さすがと言うか、気付いていたなら早く言って欲しい・・・
こちらのうろたえる様を見て笑っていたのか、なんと性格の悪い!
でも彼は約束してくれた、新撰組屯所襲撃をやめさせると。

・・・なぜか信じられる気がする。

彼は極悪非道ではあるが嘘はつかない。
そしてたまに見せる優しい一面が脳裏から離れない。
交換条件で勺をしているといきなり顎をつかまれた。


「やはり俺の目に狂いは無かったようだな・・・その姿、我が妻にふさわしい」


あざけるように褒める。
息がかかりそうなほど至近距離で呟かれた言葉に無駄にドキドキしてしまう。
男の人に顔を近づけられるのには慣れていない。


「は、離してくださいっ!」


ジタバタしようにも動きにくい着物な上、徳利を持っているためヘタに暴れられない。


「こ、これじゃあお酌できませんよ!」

「ふ、何故離れねばならん。俺のものに何をしようと俺の勝手だ」

「あなたのものになった覚えはありません!!」

「・・・そんなに俺が欲しいか?」


話を聞け!?と怒鳴るより先に押し倒された。
器用に徳利は奪われ完全に動きを封じられる。


「祝言を挙げるまで手は出さんが、味見くらいはさせてもらおうか」

「はあ!?」


慌てて逃げようとしたら口を口でふさがれた。
突然で強引極まりないが、優しいキス。
千鶴は混乱しながらも真っ赤な顔で顔を反らす。


「このまま連れ去りたいくらいだ」


千鶴の髪にキスを落としながらニヤリと笑う。


「芸者の足抜けは御法度か、別に構わんが俺と供に来た時の楽しみに取っておくという手もある」

「・・・・・」


言い返そうか迷っていたら彼が首筋を舌でなぞる。


「んっ」

「・・・大丈夫だ、まだ襲わん」

「じゅ、十分恥ずかしいですが!?」

「くく、いい反応だ」


今度は赤い耳をなぞられる。


「この耳で聞いたことを信じろ、鬼は嘘はつかん」


彼はゆったりと身を起こし、開放された千鶴もまた乱れた着物をなおす。


「・・・風間さんはよくわからない人です」

「・・・・・よくわからいとは?」


千鶴はクスクスと笑っていた。
風間は居心地悪そうに顔を反らす。


「私もよくわかりません」

「理解は不要だ、おまえが俺のものだという事実は変わらんのだからな」

「・・・強引ですね」

「今に始まったことではないだろう」

「自覚、あったんですか」


千鶴は口に手を当てておかしそうに笑った。
風間も困ったように笑い返すのだった。











あとがき

鬼は大変ですね祝言挙げるまで手出しできないんですかそうですか(にやり)
きっと風間さんもそれを守り通しているでしょう、なんたって当主ですからv
いやー一途っていいですねえー
仮にそれをストーカーと呼ぶとしても千鶴一筋ですから許せます(笑)