落ち葉焚き火
焚き火がパチパチ鳴っている。
この寒空の下、焚き火の火は暖かい。
千鶴は
掃き掃除のついでに集めた落ち葉に混ぜてサツマイモを焼いているがその温もりに傍を離れられない。
昼間から新撰組屯所の中庭で大胆に焚き火などができるのは、平隊士が容易に近づけない幹部の部屋が近くにあるからだ。
沖田さんは病で床にふせっているがその存在は平隊士を退ける意味ではかなり効果的だ。
そして恐らく彼は私の垂れ流しな気配に気付いているはずだが知らぬ顔を決め込んでいる。
けっこうありがたいことだ、ニコニコしながら焚き火をつついていると背後から声がした。
「呑気だな・・・俺が最小限に気配を消しているとはいえ微塵も気付かぬとは」
「!!」
驚いて振り向くとすぐ近くに男はいた。
金髪で紅い目の”鬼”、風間千景が。
「な、なんであなたが・・・」
眉根を寄せ、ぐっと箒の柄を握り締める。
「そう警戒するな、今ここでお前をさらうつもりはない」
「・・・では何しに?」
強く睨み上げるが彼の見下したような態度は変わらない。
むしろ口元が笑みの形に歪む。
「ただの息抜きだ、歩いていたら煙が見えた、お前の気配もした、だから来てやった・・・それだけだ」
彼は含み笑いを崩さない。
真意はわからないが彼がさらう気はないというのは信じられる気がする。
パチンと焚き火の火が跳ねた。
「・・・ここは新撰組の屯所です。軽々しく侵入すれば問答無用で斬られますよ」
「ふん、では何故姿を見せん?俺に気負ったかお前を見限ったか、どちらにしろ奴らごとき障害物にすらならん」
にやりと笑いつつ木陰に腰を下ろす。
「どちらでもありません、彼らを見くびらないでください」
ムッとして睨む。
「別に見くびってはいない。愚かな人間共には何の感慨も沸かんだけだ」
風が彼の髪を揺らす。
むかつくほど綺麗な顔立ちに千鶴は思わず見とれてしまう。
その視線に気が付いたのか、風間が目だけを向ける。
「・・・なんだ?」
「べ、べつに何でもありません!ていうか何くつろいでるんですか早く立ち去ってください!!」
ふいっと顔を反らして掃除を始める。
赤くなっている顔に風間が小さく笑う。
「この焦げ臭さも風流という奴か」
はたと顔を上げる千鶴。
モクモクと煙を立ち上らせる落ち葉が目に飛び込んできた。
「きゃー!焦げちゃう!」
慌てて枝を差し入れる。
丸焦げではなかったが焼き過ぎた感は否めないサツマイモ?が現れた。
割って中身を確認しようとして熱くて思わず取り落としてしまう。
「熱っ」
叫んでしまっが、芋を取り落としたことよりいつのまにか風間が目の前にいることに驚いた。
「・・・手を出せ」
「え?」
「聞こえなかったのか手を出せと言ったんだ」
強引極まりない発言に、おずおずと手を差し出す。
やはり手の火傷はもう治りかけており、痕も残りそうにない。
ほっとした瞬間、風間はそこに口付けを落とした。
さも当たり前のように自然な動きで。
「な!?」
見る見るうちに赤くなる。
「な、何するんですかー!?」
ばっと手を引っ込める。
対象物を奪われ眉間に皺を寄せる風間。
「我が妻の手に痕でも残ったら大事だ、俺は古来からの治療法を実践しただけだが?」
くくく、と笑う。
絶対からかっている!反応を見て面白がっている!
千鶴は真っ赤になりながらも確信した。
「あなたという人は・・・うぐっ」
言い返しかけて口を手で押さえられる。
「いずれ正式に迎えに来る、待っているがいい我が妻よ」
腕から開放され、反論しようと顔を上げるとすでに風間は姿を消していた。
地面に転がった黒い物質が、彼の舌のぬくもりを残した手の感覚を蘇らせる。
「妻じゃない、わ・・・」
声こそ上げなかったが、彼の言う治療行為は死ぬほど恥ずかしいものだった。
でも、嫌ではなかった。
認め難いが彼のたまに見せる優しさに惹かれ始めている自分がいる。
冷たい風が吹きすさぶ。
手に残ったぬくもりがいつまでも千鶴の頬を赤くさせていた。
あとがき
ちー様好きすぎて死にそうです。
ちー様ルートでの彼の優しさは反則でしょう・・・
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