放たれた獣
祝言といっても千鶴には親しい親戚もいない。
千景には鬼なりの夫婦の儀式があるといい、天霧が見届け役として同伴するらしい。
酒を酌み交わすという行為はどこか日本のしきたりと似ている。
その儀式とやらも無事に終わり、晴れて夫婦となった二人はもちろん一つ屋根の下で暮らし始める。
日が落ちるにつれ暗くなる室内。
夜の帳が降りれば暗くなるのは当然で、だがそれが千鶴の心臓にはよろしくないものだった。
時間が経つにつれドキドキソワソワし始める。
なにしろ近くには千景という危険分子がいるのだ、夫婦の契りを結んだ時に覚悟は決めていたとはいえやはり緊張してしまう。
もう心臓が口から飛び出そうだが何とか気を落ち着けようと奮闘する。
その結果なぜか台所に立ち「うー」と唸りながらおにぎりを握る。
すでにズラリと並べられた握り飯たちが次々に出来上がっていく。
こんなときだけ仕事が速い自分を呪う。
ふと背後に気配を感じて振り向こうとするといきなり抱きしめられた。
「きゃ!?」
「・・・そんなに食えないが?」
「か、風間さん」
犯人は先程夫婦の契りを交わしたばかりの男、風間千景。
抱きしめる力がどことなく強い気がする。
「緊張しているのか?バカだな」
「ちょ・・・なんでもいいですから離してください!!」
「何故だ?」
くくく、と笑う。
絶対楽しんでいるに違いない。
というかこの状況で緊張しない方がおかしい!
今自分を抱きしめている男は禁欲の枷から解かれた猛獣なのだ。
覚悟を決めた決めたと言い聞かせても高鳴る心臓は押さえられない。
「は、離してくださらないと作ったおにぎりが食べられませんしっ」
「握り飯より甘美な物を捕まえているところだが」
「っ!」
耳元に熱い息がかかる。
やっぱり・・・こうなると思った・・・
千鶴が真っ赤になって固まっていると、千景は面白そうに口の端を上げ耳を甘噛みする。
「ふあっ」
「・・・大丈夫だ、なるべく優しく努める」
ため息にも近い声で囁かれ、足の力が抜ける。
倒れる寸前に千景に抱き止められた。
「言ったそばから倒れられては困るな,まさかまだ俺に我慢させる気か?」
「い、いえ・・・あの、あなたと夫婦の誓いを立てた時から覚悟は決まってたと思ってたんですが・・・」
「うん?」
「・・・その、やっぱり心の準備が・・・」
はあ、と千景がこれ見よがしにため息を吐いた。
「俺は待った、と言ったな。新撰組に組していた時から換算すれば一年どころの騒ぎではないぞ」
「・・・・・です、ね」
グイッと向きを変えられる。
いつの間にか千鶴はすっぽりと千景の胸の中に収まっていた。
「これ以上、待つ気はない」
強引に顎を持ち上げられてキスが落とされた。
それは今までとは違う、息ができないほど深く激しいもので舌が生き物のように口内を貪る。
彼はその行為を続けたまま千鶴を抱き上げた。
うろたえる千鶴を尻目に歩を進める。
向かうは寝室。
別に居間でも構わないがそこは彼なりの気遣いだった。
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あとがき
続きを書くと間違いなく18禁なので自粛(吐血)