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「・・・う」

「目が覚めましたか?」


男は枕元で椅子に座り読書をしている。
レナスは頭が重かったが自分がベッドに寝かされていることに気付いた。
レザードは特に気にすることなく読書を続ける。


「・・・何の真似だ」


何とか起き上がったがやはりまだぼうっとする。
男はそれを目に留めると本を閉じ微笑んだ。


「私は紳士なのですよ、寝ている貴女を犯すことは簡単ですが私が欲しいのはあなたの心ですから」

「ふん、薬で眠らせるという手段がすでに卑怯者のすることだろう」


睨みつけるが彼はどこ吹く風だ。


「いいですか、私にとってあなたを辱めることがどんなに容易なことかわかりましたか?」

「・・・」

「眠っているあなたはまるで天使のようでしたよ」

「貴様・・・やはりゲスだな」


彼は微笑んだまま立ち上がった。
構えるレナスを尻目に真横に腰を下ろす。


「口が悪いですねえ」

「ち、近寄るなクズが!」


手が伸びてきてレナスの頬を捉えた。
距離が近い。かなり近い。


「私がクズなら貴女はそれを浄化しないといけない。
わざわざここに出向いたのは私を浄化するため、違いますか?」

「・・・」

「構いませんよ、あなたがその唇を私に委ねてくださるというのなら喜んで浄化されましょう」

「・・・本当か」

「ええ」


レナスは少し戸惑ったがおもむろに目を瞑り力を抜いた。
頬に添えられた手が顎に添えられる。

レザードはそのまま唇を重ねた。
下が歯列をなぞり口内に侵入してくる。
大嫌いな男の口付けであるのになぜか苦痛ではなかった。
あまりにも優しいその行為は彼女を困惑させた。


「ん・・・もう、いいだろう」

「・・・ふふ、そうですね、これ以上続けたらせっかくの紳士宣言が無駄になるところでした」


そう言うと手を離しゆっくりと立ち上がった。


「浄化されても良いと言ったな」


レザードを見ると彼は微笑んでいた。


「ずいぶん楽しそうだな、これから浄化されようとする奴が」


男はやはり微笑んだままこちらを見下ろす。


「ええ楽しいですとも」

「そうか」


魂を浄化しようと手を伸ばすとぱしっとつかまれた。


「なに・・・」

「嬉しいですよ、貴女がこんな男の戯言を信じてくださって」

「だましたのか」

「人聞きが悪いですね同意の上ではないですか」


穏やかに言うと手をレナスに掲げた。
何かをぶつぶつと唱えると手のひらからまばゆい光が溢れ出し、あっという間にレナスを包み込む。


「こ、これは」

「転送魔術です。移送方陣と違ってあまり遠くへは飛ばせないのですが方陣いらずです、便利でしょう?」

「私を呼び出したのはキスするためだけにか!?」

「いけませんか?ちゃんと順序を守っているのですよ何せ紳士ですから」

「貴様・・・馬鹿にしているのか」

「犯されたかったですか?それはまた次の機会に。まだまだ時間はありますからそう焦らないで」

「ち、違う!アホか貴様は!」


光が突如強まりレナスは思わず目をそらした。
そして気付いた、自分の服装が変わっていることに。


「おい!私を着替えさせたのか!?」


レザードは笑いながらメガネを押し上げた。


「ああそうでした、貴女の服一式もきちんと転送しますから」

「私の質問に答っ」

「また招待いたします。愛していますからねヴァルキュリア」

「ば・・・ばか男が・・・」


口をついて出たのはひどく小さな言葉。
なぜか頬が熱い。

消えゆくレナスにレザードは不思議な表情を向けた。
悪人にあるまじき、人らしい表情を。


「・・・確かに私は馬鹿ですね、せっかく手に入れた貴女をみすみす逃がしてしまったりして」


レザードは苦笑を浮かべるのだった。








あとがき

最終的にレザードが良い人になってしまいました。
でもまあストーカーですから(笑)