黒猫騒動
「ちょ・・・おさないでよロン!」
「僕じゃないよーハリーを攻めてよっ」
「ハーマイオニー僕は断じておしてないよ」
スリザリンに侵入したグリフィンドール生3人組。
好奇心でもあるけれど罰ゲームでもあった。
白と黒の石を使う日本のゲームにロンが大負けした報いなのだ。
「まったく・・・なんで私たちまでなわけ!?」
「しょうがないよ。そういう賭けだったんだから」
憤慨しているハーマイオニーをハリーは慰めた。
問題のロンはといえば名乗りでたぶん罪悪感にさいなまれている。
「どこのどいつよ!こんなふざけた罰ゲームを言い出したやつは!」
「マ、マルフォイに決まってるじゃん・・・」
「悪いのは負けたロンだけどね」
「ハリー・・・このごろハーマイオニーに似てきたね・・・」
にこにこしつつ毒舌なハリーをロンはびくつきながら見た。
「それはそうと、こんなところをスネイプの奴にみつかったら・・・」
「減点間違いなしね」
「グリフィンドール30点減点」
低い声が響き渡った。
「あ・・・スネイプ先生」
かすれた声でハーマイオニーが呟いた。
見上げた先には黒い服の無愛想な男が立っていた。
「昼休みにどこへ行こうと勝手じゃないですか」
おびえるロンを尻目にハリーがたてつく。
「我輩に意見するとはいい度胸だ。確かに勝手だがここはスリザリン生のための校庭だ。
許可なく入ることは貴様らには許されていないはず。減点が少なかったかね」
「だから押さないでって言ったのに!見つかっちゃったじゃないロンのバカ!」
「こ、これじゃああまりにも早すぎるよう」
勇ましい二人の後ろでロンが泣きそうな声を出す。
実は教師に見つかったら終わりというルールだった。
「マルフォイが僕たちが隠れている場所をスネイプにちくったんだ!」
「彼ならやりかねないわね・・・」
あまりにも早い終わりにハリーとハーマイオニーは揃って肩を落とした。
結局、マルフォイの思惑通り減点されて終わるわけだ。
「まあ、300点引いてもよかったのだがね」
「・・・なんで引かなかったんですか?」
「君は成績優秀だからな、それで救われたと思え」
ハーマイオニーは少しほほを紅潮させた。
まさかこの悪徳教師から褒め言葉をもらえるとは!
ロンは肩の荷が下りたようにその場にへたり込んだ。
「だがこれは罰なのだろう?こんな終わり方じゃ物足りんだろう。
この中の誰か一人、我輩の付き人でもしてもらおうか」
スネイプの思わぬ提案に3人は固まった。
「つ、付き人って・・・」
「僕っ妹の面倒見なきゃならないんで!」
「・・・ハリーはクディッチの練習で忙しいし、ロンは家族の世話がある。
つまり私しかいないじゃないですか」
あからさまに嫌そうな顔をする二人と違い、ハーマイオニーはどこか楽しそうだった。
「それじゃあおまえにきまりだなミス・グレンジャー」
「望むところです」
「待ってください」
突然ハリーがずずいと前に出た。
「彼女は強がってはいますが女の子です!力仕事はさせないでください!」
「・・・お前は保護者か?我輩に指図するんじゃない」
「それと彼女に近づかないでください」
「・・・・・」
「あなたはハーマイオニーに好意を抱いてる。飢えた狼のもとに羊を送り込むようなもの。そんなことさせない」
バチっと火花が走った。
「何を抜かす・・・我輩がこのような小娘を相手にするわけが」
「僕にはわかるんです。ハーマイオニーは渡さない」
「ハ、ハリー・・・」
ハーマイオニーは真っ赤になりながら呟いた。
ロンは蚊帳の外だった。
「お前の承諾など要らぬ。こいつはもはや我輩の付き人なのだ」
そう言い捨てると彼は懐から杖を取り出した。
「これで痛めつけられたくなかったら大人しく退散しろ」
「・・・行こうロン」
「え?ハ、ハーマイオニーは?」
「彼女なら大丈夫さ。何かあっても責任は僕にあるよ」
自身ありげに言い捨てるハリー。
「ハーマイオニーをあんな奴に渡すもんか」
「・・・それ、スネイプがハーマイオニーを好きって事?」
「さあね。でもあんなオヤジに負けてられないよ」
「ハリーも、好き、なんだね」
「・・・」
「ぼ僕はハリーの味方だよ!あんな性悪教師にハーマイオニーが惹かれるわけないじゃないか!」
「・・・そうだといいんだけどね」
去っていく二人の背を見送りながらハリーは小さく呟いた。
彼は気付いていた。
スネイプのハーマイオニーに対する態度は、好きな女の子をいじめるそれと言わざるをえない。
だがそんなことで引き下がっていられない。
「僕もたぶん・・・好きなのかもね」
ハリーの呟きを聞き逃さなかったロンはやっぱりねと肩をすくめた。
「チョウと二股かける気かい?」
「失礼な・・・僕は一途だよ。もちろんロン、君にも負けないよ」
絶句する親友に笑いかけて
「ハーマイオニーはにぶいから気付いてないけど僕は欺けないよ」
「ぼ、僕はべつに・・・」
「でも僕を応援してくれるんだよね?ありがとう、そのままの君でいてくれ」
「う・・・ん・・・」
笑顔を定着させた”親友”にロンはいびつにそう答える。何かもやもやしたものが彼を覆った。
それを振り払うように二人は食堂に向けて歩き出す。
振り向いてみたが、すでにハーマイオニーらの姿は見えなくなっていた。
日が傾き始めていた。
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