月明かりの中、高そうな屋敷のバカ高い石垣でうごめく影があった。
出会いは突然に
「なんか・・・嫌な夜ね」
呟いたのは大泥棒と名乗る少女、名を と言う。
家は薬屋、けっこう名家だったが戦に巻き込まれ両親と家を失った。
頼る親戚も兄弟もいなかったため独学で忍びとなり盗みを働いていた。とこんなところだ。
せかせかと石垣を登っていくと何やら行き止まってしまった。
「何これ・・・ねずみ返し!?」
この前下見に来たときは無かったはず。
「お金持ちのやることはセコイわね」
泥棒にそんなことを言われたくないがは疲れていた。
手が痺れ始めたがここはもうかなり高い。
「思えば何で今まで頑張ってきたんだろう・・・」
今手を放せば楽になれる。
もう寂しい思いをしなくていいんだ、そう思うと全てがどうでもよくなった。
「さようなら・・・」
何に対して言ったかはわからないがは手を放した。
しかしがしっと腕を掴まれた。
驚いて見上げるとねずみ返しの上で鉢巻きをたなびかせる男と目があった。
「どこの若造かと思いきや、お嬢ちゃんだったか」
軽く持ち上げられはしばし放心していた。
「ん、どうした?」
手を振るとはっと気がついた。
なぜか屋敷内にいたのだ。
「わ、私・・・」
「たまげたよ。まさか暗殺者が自決をはかるとはな。残念だが報酬を受け取るまではおまえさんを死なせるわけにはいかんのでな」
「暗殺?私はただの盗人だけど・・・」
「何?」
男の顔が急に厳しくなった。
「あなた、ここの住人じゃないの?」
「・・・おまえ、名は?」
質問を無視した挙句ぶっきらぼうな態度。
さすがのもむかついた。
「人の名前を聞くときはまず自分が名乗るべきよ」
強気に出たが相手は特に気にならなかったようだ。
だが少し空気が軽くなったような気がした。
「わしは大木雅之助だ」
「・・・私は。」
「よし、今からわしは仲間と合流する。おまえも来い」
「な!?別に私がいく理由ないじゃない!」
「自決を試みる奴を一人置いていけるか」
「えっ」
「おまえはまだ若い・・・とにかく連れて行くぞ!」
問答無用で抱き上げられた。
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