「土井先生、ちょいと遅くなった」
「いいですが・・・そちらは?」
ようやく開放されたは暑苦しい覆面を取った。
予想外に可愛らしい少女だったので先生と呼ばれたその男は驚いていた。
「私はと言います。しがない忍者です」
「くんか・・・私は土井半助。忍術学園の教師をやっている」
よろしくとその男は笑った。
こんな人が用心棒なのかとじっと見つめると彼はなぜか目をそらした。
「君はその、どこから来たんだい?親御さんも心配しているだろう、私が送っていくよ」
「私には帰るべき家がありませんからご心配なく」
「あ、すまない・・・」
「あやまらないでください、別に私気にしてませんから」
にこっと笑うに見とれてしまう土井。
フルフルと頭を振って思考回路を元に戻した。
「帰る場所はあるのかい?」
「え、それは・・・」
言いかけたとき、
「わしの家じゃ!」
と、やたら威勢のいい声が下から聞こえてきたかと思うと大木雅之助が身軽に天井に降り立った。
「ビ、ビックリしたー大木先生!いきなり現れるのはやめてください!」
「わはははは残念だったなー半助。たった今決まった、はわしが引き取る!」
「あなた独身でしょう!彼女だって子供じゃないんですから、その、だめですよ!」
真っ赤な顔で慌てて言い放ったものの自分が名乗り出ようと思っていただけに強く責められなかった。
やましい気持ちはなかったのだが考えてみれば大変ことだ。
きり丸がいるとはいえ年頃の若い男女が一つ屋根の下。
土井が妄想であたふたしているのに対してはただただびっくりしたように大木を見つめていた。
「あなた・・・先生だったの!?」
信じられない!というの様子に、ぼりぼりと頭をかいた。
「んーまあ昔のことだ。どうだ、わしの家は不服か?もちろん部屋はきちんと敷ったる」
「それは・・・そっちが良ければ、はっきり言って助かるし」
「だ、だめだ・・・」
蚊の鳴くような声で否定する土井を尻目に一人にこにこな大木雅之助。
「よし、決まりじゃ!この仕事が終わったら案内してやろう」
「ありがとう大木さん」
「んなこそばゆい呼び方はやめい。わしのことは雅之助でいいぞ」
年上の者を呼び捨てにするのは抵抗があったが本人が望むのなら仕方ない。
「わかった。これからよろしくお願いします・・・雅之助」
一件落着。
脱力した土井は精一杯の悪顔で大木を睨みつけたが、まったく利いてはいない様子。
そして何かを閃いてポンッと手を叩いた。
「そうだくん!忍術学園で働いてみないかい?たしか保健の先生が助手を欲しがっていた!」
「本当ですか!?私薬士の娘ですから薬の知識はあるんです!」
「それは強力な助手になりそうだね。是非頼むよ」
これで接点は保たれた!と喜ぶのもつかの間、屋敷に人の気配感じてとっさに目つきが鋭くなる。
「しっ誰か来た」
土井はをかばうように手で制し身を潜めた。
「もしかして・・・例の暗殺者ですか?」
「そうかもな。どうしますか大木先生?」
「んー相手は一人だ。わしはこいつとここにいるから半助、頼んだ」
「・・・わかりました」
土井が飛び出そうとするとがいないことに気がついた。
そして下からひぃという短い悲鳴が聞こえてきた。
「くん!?」
なんとその暗殺者はすでに気絶していた。
はにこっと笑い「私も忍者ですから」とさわやかに言い放った。
あまりの早業に土井は放心していたが大木は豪快に笑うと飛び降り、気絶している哀れな暗殺者を覗き込んだ。
「完璧に気絶しとるな。見事な技だ」
頭をわしゃわしゃされて力を認められたようで。
正直、嬉しかった。
照れ笑いをするとそれを見た土井が落ちてきた。
「あっけないな。こんなことのためにわしを呼んだのか」
「まさか。脅迫状には10人と・・・」
「えらく強気な嘘だな。報酬はいらんぞ山田先生と分けろ」
そう言い捨てるとの腕をつかんだ。
「帰るぞ」
「え・・・」
ぐいっと引っ張られて思わず振り向く。
「土井先生ー私のこと学園長に言っておいてくださいねー!」
「くん!」
ひき止めようと伸ばした手は空振りに終わった。
嵐のような、ちょっと甘い一時。
土井はしばし放心した後、気絶している男を縛る。
その様子を眺めていた山田はゆるりと姿を現した。
土井は相変わらず夢見心地だ。
「こりゃー重症ですな・・・」
その山田の呟きは忍術学園に嵐が巻き起こる前触れだった。
あとがき
ま、ヒロイン紹介はこんなところです。
いろんなところに無理がきますがそれはそれ(逃)
妻子持ち位外には愛されてます。これぞ夢。