2:きっと歓迎会







今夜は月詠の歓迎会と証した飲み会だ。
でも月詠はいまだ保健室で仕事をしていた。
何がどこにあるのか、この薬はどの症状に効くものかなど覚えなければならないことは山ほどある。
デスクにかじりついていると入り口の扉がガラリと開いた。


「誰じゃ?もうとうに帰宅時間は・・・」

「ちょいとお腹が痛くなったんでベッドで休ませてください」


現れたのは生徒ではなく3年Z組担任の坂田銀八だった。
くわえタバコが衝撃的だったが教育上、煙が出るただの玩具らしい。


「そんなに口が寂しいでありんすか。わっちは職業柄完全にタバコを辞めたが」

「へーおまえ吸ってたの?これいいぜ、ミント味で無害、吸ってみる?」


銀八は口からそれを取り月詠に差し出す。
とたんに月詠は真っ赤になる。


「ア、アホか!教育者ともあろうものがドアホな真似をするでない!!」

「アホアホ言うなよ・・・いいじゃん関節キスくらい減るもんじゃなし。お前と俺の仲じゃん」

「どんな仲じゃ!?今日会ったばかりではないか!」

「おまえ日輪と一緒に暮らしてんだろ?日輪から言われてんだよおまえのこと頼むって」

「な・・・」


よっこいせとベッドに腰を下ろす銀八。


「で、俺は腹痛を訴えたよ。
これから歓迎会という名の飲み会だ、お前の準備が終わるまでここで待ってるから」

「・・・勝手にしなんし。じゃがくれぐれも起きるでないぞ着替えねばならんのでな」


銀八はひらひらと手を振って布団に入った。
含み笑いが非常に気になるが病人を追い出すわけにもいかない。
それに着替えるといっても上着を替えるだけださすがに白衣のまま行くわけにはいかない。
ロッカーを開けハンガーにかけていたカーディガンを手に取る。


「・・・月詠ぉ」


いきなり銀八が自分の名を呟いた。
かまわず白衣を脱ぐ。


「先生と呼びなんし。なんじゃ?」


振り向こうともせず月詠は返した。


「だめだよーこんな無防備だめだよー今密室に2人きりなんですけど」

「大丈夫じゃ護身術は身につけておる。変な動きを見せたら即メスで串刺しじゃ」

「おー怖。でも俺が本気になりゃメス嵐は役に立たないと思うなあ」


ベッドに寝転がりながら枕元の自前の木刀をいじる。


「死んだ魚が生魚になろうと魚は魚、あまりわっちを見くびるな」


カーディガンを羽織った月詠がベッド脇に立った。
上から睨む視線を受け流す。


「着替えるの早・・・どーせなら全部着替えりゃ良かったのに」

「白衣を替えれば良いだけのこと。早いにこしたことはなかろう・・・・・腹痛は大丈夫か?」


心配げな顔になる。


「あ、そういやそんな設定だったな。大丈夫大丈夫ちょいと横になったら治まったぜ」


ムクリと起き上がる。


「面倒なことに俺はお前のボディーガードを言い付けられてんだ、校長と日輪にな」

「日輪に?」


起き上がった男にがしっと手をつかまれた。


「お前はこの辺の地理にうといらしいな。
それにこれからの時間帯は物騒だ、女の一人歩きはお勧めしないぜ」

「・・・すまんな」

「いえいえ」


にこりと笑う銀八だった。