酒の妙力









芸者は着飾ることが仕事でもある。

君菊に化粧や着付けを施され、千姫から絶賛されたが鏡を見る間もなく新撰組の皆にお披露目することになった千鶴。
あからさまに驚いていたのは永倉と平助だった。

幹部たちから激励を受け、千鶴は一礼して部屋を出た。
しばらく廊下でぼーっとしていたら君菊が現れた。
なんでも千鶴に指名が入ったという。
今来たばかりで無名なはずなのに一体誰が・・・と疑問に思いつつ動きにくい着物を引きずって座敷に向かう。

襖を開け頭をたれてぎこちなく挨拶をするとポンと肩を叩かれた。


「かしこまる必要はねえよ千鶴ちゃん」

「え?」


聞き覚えのある声に顔を上げるとニコニコ笑う永倉新八がいた。


「うーん何度見てもその着物が似合っているなあ」


感心しきりな近藤はうんうんとうなづいている、そして千鶴に好きなところに座るよう促した。
何故か奥の席で黙々と飲んでいる平助のもとに向かう原田左之助。
行き際に千鶴に声をかけた。


「綺麗だぜ千鶴。平助のことは俺に任せてくれ、おまえには新八の相手をしてやって欲しい。
もうだいぶ出来上がってるみてえだからな」


そうため息混じりに呟いて永倉を指差す。
確かに虚ろな目で近藤に絡んでいる、目があってしまって千鶴はビクッとなる。


「あれーべっぴんのお姉ちゃんが何してんの?こっち来いよこっちー」

「は、はい」


慌ててそばに行くとまじまじと顔を覗き込まれた。


「べっぴんだけど・・・もしかして千鶴ちゃん?」

「そ、そうでうすけど・・・」


かかる息が酒臭い。かなり飲んでいると思われる。
次に何を言われるか身構えていると予想は外れ寝息が聞こえてきた。
見ると机に突っ伏して眠る永倉の姿が目に飛び込んできた。


「あーダウンしてしまったか?」


冷静に、だが少し困惑しつつ近藤が見やる。


「寝ちまったのか?ったくしょーがねえなー」


左之助は苦笑する。


「千鶴ちゃん、こいつを休ませておける部屋はあるかい?俺らはもう帰らねーといけないからな」


永倉の腕を取り上げ反対側を平助に支えるように合図する。


「早々につぶれてんなよー新八っつぁんのくせによお」


ぐちぐち言いながら反対側の永倉の腕を持ち上げる。
「重てぇー!」と騒ぐ平助。


「あ、じゃあ奥の部屋に。布団もありますから」


千鶴の提案に左之助が「悪いな」と柔らかく笑った。