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カキ氷屋の前に来た二人。
いい具合のパラソル付きのテーブルがある。
ほとんどが人で埋まっていたが一つだけ空いている席を見つけた。
「ここがいんじゃね?」
「まあ、どこでもいいが」
さっそく席に着く。
メニューがすでにテーブルに取り付けられているためすぐにそれを見る。
メニューはカキ氷しかないが。
「お、けっこうシロップが豊富だねぇ、俺は宇治金時かな」
「わっちは・・・ブルーハワイかの」
「てっきり王道の苺かと思ってたが意外と通か?」
「まあ別に食べたことがないわけではない。ぬし吉原をなんだと思っている」
「いや地下に海は無いからカキ氷とかも無いのかとな」
「残念だったな、海は無いがプールくらいはありんす」
いきなり銀時が立ち上がった。
「俺が買ってくる。遠慮はするなよ水着買ってやれなかったしな」
「・・・遠慮なくおごってもらおうかの」
任せとけと言わんばかりに手を上げて立ち去る。
月詠はひとり海を眺めていた。
目を閉じると波の音が心地よく聞こえる。
そんな一時を邪魔するのはやはりナンパな男達だった。
「やあお姉さん、綺麗だね」
「俺らと遊ばない?」
その二人組みは褐色の肌を見せびらかすように月詠に迫ってきた。
うざい、と月詠は思い無視を決め込んだ。
こういうナンパ野郎は無視するに限るというのが吉原の教訓だ。
月詠は日輪のカムロになってからというもの店に出たことは無いが
遊女たちから愚痴を良く聞かされる。
反抗すると処罰は日輪にまでおよぶ、
だから無視がいいと教えられた。
だからそれを迷わず実行する。
「お姉さんってばあ」
「一人は寂しいでしょ?俺らとおいでよー」
「わっちは連れがいるのでな」
返事をしてるあたり、無視しきれていない。
「連れ?いないじゃん。てかその言葉遣い、もしやお姉さん花町の人?」
「おお、いいねえ!」
「俺が泳ぎ方教えてあげ・・・いててててっ!?」
肩をつかもうとした手が突然ひねり上げられた。
「こらこら、だめじゃないか君たちぃ。ナンパは他をあたりたまえよ」
カキ氷を片手に現れたのは銀時だった。
言葉は穏やかだったが行動と顔つきが穏やかじゃなかった。
「あ、いや、あの、お連れ様がいたんですね」
「そう言ったはずじゃ」
「ちくしょー男連れかよ・・・おい、行こうぜ」
「綺麗な子はやっぱお手つきかよ」
男達はしぶしぶ去っていった。
「ちょっと目を離したらコレだ」
「悪い、あのまま肩でもつかまれていたら串刺しにしていたかもしれん。危なかった」
「・・・本当に危なかったぜ」
ことんとブルーハワイのカキ氷を月詠の目前に置いた。
「?ぬしの宇治なんとかは?」
「ああ、それならさっきの反動で砂に見事に落ちたよ」
指をさされた方を見ると宇治金時カキ氷が砂に埋もれていた。
甘党の男が文句の一つも言わないことが不思議だ、いつもなら怒りまくるパターンなのに。
「いいのか?」
「いいわけねーだろ、仕方がねーからおまえのを食おうと思ってな」
「別に構わん。わっちは一口でいい」
「え?お、おい、それじゃ俺が奪ったみたいな空気になるじゃねーか」
「もともとぬしの金じゃ、好きなようにせい」
「そりゃおまえのために買ったんだからお前が食わなきゃ意味ねーだろ」
「それよりその手提げ袋は何だ?」
銀時の席の横に白い袋が置かれている。
「これか?これはなあ特産品らしいぜ、塩アイスとか言う」
「・・・衝動買いか。糖尿寸前男がそんなもん食べていいのか?」
「いいんだよ、カロリー控えめなの!週一のパフェ我慢するし」
男の甘党ぶりに呆れつつ、月詠はカキ氷を一口頬張るのだった。
予告通り、月詠のカキ氷は半分以上が残っていた。
「俺がせっかくおごってやったのに残すか普通」
「ありがたいが冷たすぎて頭が痛くなったのじゃ、すまん」
「別に謝って欲しいわけじゃ・・・ぐあっもうおまえ真面目過ぎ!」
わしゃわしゃと頭をかきむしる銀時。
「貸せ、残りは俺が食ってやる」
「うむ、任せる」
一般的にそれは間接キスvになるのだが月詠は気付きもしない。
(はぁ〜どこまで鈍ちゃんなんだ・・・)
銀時は食べながら複雑な心境だった。
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