辿り着いたのは森の中の湖のほとりだった。
不法入国の身なため病院には行けないのだ。


「・・・ランファン」


背中の部分の服は焦げ臭かったが、何かしらの処置を取るなら気絶している今が絶好の時だ。
まず火傷の痕を濡らした布きれで拭く。
消毒はできないが応急処置だ仕方がない。

処置が何とか終わり、そっと自分の上着を着せる。
なるべく目をそらすが手元が狂い、いびつな着せ方になる。


「ラ、ランファン・・・寝てる?」


呟くように問いかけるとランファンがうっすらと目を開けた。


「・・・若?」

「あっ嫌!ち、違うよ!?決してやましい事はっ」

「・・・まは?」

「へ?」

「爺様は?」


起き上がろうとして背中を襲った痛みに顔をしかめる。
そして完全に着れていない上着に気付いて徐々に赤くなる。


「あっ・・・わ、若のお召し物ではありませんか!?」


ぱぱっと着直す。


「あーー奴らの狙いは俺だけみたいでね、爺は一人なら軽々逃げられる相手だよ。
本当ならランファンも託すべきだったのかもしれないけど俺のせいで火傷を負ってしまってね、連れて来てしまった」

「・・・私はまた若の足手まといに」


ぐいっと口元をつかまれた。


「そういうことを言うな、それと前にも言ったはずだよ公の場以外では俺のことは名で呼べと」

「リン・・・様」


口元をつかんだ手を離そうとはしない。
怒られるのかと思ってぎゅっと目を瞑ると、そのまま唇が重ねられた。


「ん・・・」

「誰が何と言おうと俺はもうランファンしか愛せないよ」

「・・・リン様、幼い頃から私の気持ちは変わりません。でも身分が違いすぎます私は・・・」


言いかけて再び唇を塞がれた。
先程よりずっと強く。


「身分が何だ、俺は12番目だが王子だ。后くらい自分で決める」

「世間が、親族が許さないでしょう」

「賢者の石を手に入れて俺が正式に王となれば誰も俺の意見に逆らえまい。
それに俺は・・・ランファンしかいらないよ」

「リン様・・・」

「明日改めて医者に診てもらおう。その左腕を治療したあの男に」


ぎゅっと抱きしめるとランファンがうめく。


「ああっごめん!背中に触ったか?」


慌てて手を離す。


「いえ、大丈夫です。でもお腹がすきました」

「・・・のんきだなぁ、こんな時間に開いている店といえば居酒屋くらいか」

「食べ物があればどこでもいいです、リン様がまた行き倒れないように」


あくまでも笑顔なランファンはちょっと大きめの上着を直す。
リンは困ったように頭を掻き、ランファンを立ち上がらせた。