「居酒屋居酒屋っと」


正統派な店を探していたが目に付くのは怪しげな店ばかりで
呼び込みの女人がちらほらいる。


「やはり時間的に・・・」

「どうかなされましたかリン様?」


「あらぁ〜ダメよお兄さん、彼女連れてこんな所に来ちゃ〜」


色っぽい女性に声を掛けられてリンがでれっとなる。
ムッとするランファンは背中の痛みも忘れて繋がれた手を振りほどいてそっぽを向いた。


「やはりリン様にはこういう女の人が良いのでしょうね」


言い捨てて仮面をつける。
きっと今の顔は忠実な臣下にあるまじき表情になっているに違いないから。


「ラ、ランファンどうした怒ってるのかい?」

「怒ってません」

「お腹すきすぎると人間怒りっぽくなるからなあ」


鈍感な王子の発言はランファンの堪忍袋の緒をかすめる。
しかしそこで怒り出す臣下ではない。
そっぽを向いて黙っているといきなり手を握られた。


「あ!あの建物には呼び込みはいないみたいだよ行こう!」

「あっ」


問答無用とばかりに連れて来られたのは立派な建物の前だった。


「リン様高そうですよ、この国では顔パスは効かないんですから」

「わ、わかってるさ、安いのを頼むつもりだし」


物怖じしないのはやはり腐っても王子だからか、すいすいと建物に入っていく。
ランファンは繋がれた手を見直した。
どこまでも着いて行こう、と心に誓ったそばからリンが立ち止まる。
何事かと顔を上げると上品な初老の男が立ちはだかっていた。


「ここは高級ホテルですよお坊ちゃん。お泊りになれば食事はできますがどうされますか?」

「・・・だって、どうする?」

「どうするもなにも値段によりますよ」

「お嬢さん、大丈夫子供からお金を取ったりいたしませんよ」


初老の男がにこっと笑う。


「しかしながら従業員室になります。さすがに一般の部屋を無償で提供することはできませんしお部屋は満室ですし。
お食事はバイキング形式となっておりますが18歳未満のお客様は無料ですからね」


なんだかちゃんとしたホテルのようだ。
しかもこの人はかなり親切人だ。
身内の許可も身分証明もいらず、未成年で外国人の自分たちを無料で泊めると言う。


「こちらになります」


案内されたのは確かに従業員室らしいがなかなかの広さがあり仮眠のための簡易ベッドまである。
これが無料とは・・・いたれりつくせりだ。


「・・・リン様、話がうますぎませんか?」

「ランファン、あまり疑心暗鬼になりすぎるのもどうかと思うよ。
アメストリス人にはこれが当たり前なのかもしれない」

「ですが・・・」


ぴっと言葉を指で止められた。


「まあいいじゃないか今の俺たちには嬉しい状況だ、やばいことになれば逃げればいい」

「そ、そうですね」


うまく丸め込まれた気がするが空腹が緊張感をほぐしていく。
そうこうしているうちに案内してきた男がやんわりと腰を折った。


「後30分ほどでお夕食のバイキングが終了いたします。
会場は隣ですが、お急ぎにならないとゆっくり食事することができませんよ」


では。と再び丁寧に会釈しドアを閉める。
部屋に残された二人は顔を見合わせた。


「なんとかなるもんだな」

「たまたま運が良かっただけです」

「そうかなあ?俺たちは未成年、そんな子供を夜の街に放り出すなんて真似できやしないさ」

「・・・」


なんだか全て彼の計算通りに物事が進んでいる気がしてランファンは隣の糸目男を盗み見る。
いつもの笑顔がそこにはあった。